周術期・術後疼痛

【薬剤師解説】硬膜外麻酔中の抗血小板薬・抗凝固薬ー確認すべき開始・再開タイミング

keiko
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

エピ(Epi)をさっき抜去したんですけど、抗血栓薬はいつから飲んで良いですか?

看護師さんにこう聞かれて、ドキッとした方はいませんか?

抗血栓薬は手術が終わって出血がなければ再開OK!
そう思いがちですが、硬膜外カテーテル(※)がある場合は別の話です。
施設によっては通称「エピ(Epi)」や「硬麻」、「硬膜外」と呼ばれることもあります。
硬膜外カテーテルの薬は処方として上がってこない施設も多く、あまり考えてこなかった!
調べてもうまく情報が見つからず困ったことがある!という薬剤師も少なくないのではないでしょうか。

私は術後疼痛管理チームで日々術後の管理につい学び深めている薬剤師です。
硬膜外麻酔と抗血栓薬の管理は、薬剤師が積極的に関わるべき領域の一つで、周術期に関わる病棟の薬剤師であれば質問にも対応しなければならないことがあります。

この記事では、

  • 硬膜外カテーテル抜去後の抗血栓薬再開タイミング
  • ガイドラインと添付文書の内容の違い
  • 抗凝固薬と抗血小板薬の再開タイミングの違い

について理由とともに解説します。ぜひ最後まで読んで、業務に役立ててください。

硬膜外麻酔中に抗血栓薬を使ってはいけない理由

 

【結論】
硬膜外腔で出血が起きると血腫ができ、脊髄を圧迫するリスクがあるから。

硬膜外麻酔中=硬膜外にカテーテルが入っていて、抗血栓薬を内服することにより出血を助長してしまうから。

そもそも硬膜外麻酔に馴染みがないかもしれませんが、病棟で「エピ(Epi)」という言葉は聞いたことありませんか?

ここでは簡単な説明のみにしますが、硬膜外麻酔(Epidural anesthesia)を通称、「エピ(Epi)」と呼んでいます。
この硬膜外麻酔は背中から脊椎管内に針を刺してカテーテルを留置し、そこから薬を硬膜外に流すものです。

この脊椎管内は骨に囲まれた閉じた空間のため、出血しても血液の逃げ場がありません。血液が溜まると血腫となり脊髄を圧迫します。最悪の場合、下半身麻痺に至ることもあります。

抗血小板薬・抗凝固薬はこの出血リスクを高めるため、硬膜外カテーテル留置中は原則として投与しません。

カテーテル抜去後の開始・再開タイミング

硬膜外カテーテルを抜去したあと、抗凝固薬をいつから始められるのかは悩みやすいポイントです。もともと抗凝固薬を内服していた方の再開はもちろんですが、これまで抗血栓薬を使っていなかった方でも、術後の深部静脈血栓症(DVT)の予防のために新しく抗凝固薬を開始することがあります。

とくに下肢整形外科手術後のDVT予防では、DOACの中で唯一適応を持つリクシアナ(エドキサバン)がクリニカルパスに組み込まれていることもあります。パスに沿って自動的に開始されるぶん、カテーテルの状況とあわせて「今このタイミングで始めてよいか」を確認しておきたいところです。

「抗凝固薬」の推奨開始・再開時期

【結論】

DOAC(エドキサバン、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトラン)は、ガイドライン上「硬膜外カテーテル抜去後6時間以降」の再開が目安です。

ガイドラインでは、カテーテル抜去から投薬再開までの時間は以下の記載がされています。

商品名一般名抜去後の再開目安
ヘパリンナトリウム注未分画ヘパリン2時間
ワーファリンワルファリン抜去後に再開
リクシアナエドキサバン6時間
イグザレルトリバーロキサバン6時間
エリキュースアピキサバン6時間
プラザキサダビガトラン6時間

(参考:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン(第3版))

添付文書とガイドラインの記載の違い

添付文書では以下のような記載があります。
実は、添付文書だけで判断すると、ガイドラインと大きくずれてしまうケースがあります。

商品名一般名添付文書の記載区分具体的な記載
ヘパリンナトリウム注未分画ヘパリン重要な基本的注意神経障害の徴候に注意(時間の明記なし)
ワーファリンワルファリン(直接的な記載なし)
リクシアナエドキサバン警告カテーテル抜去・穿刺後2時間以上あけること
イグザレルトリバーロキサバン警告カテーテル留置中・日の浅い場合は投与を控えること(時間の明記なし)
エリキュースアピキサバン警告カテーテル留置中・日の浅い場合は投与を控えること(時間の明記なし)
プラザキサダビガトラン禁忌留置中・抜去後1時間以内は禁忌

「脊椎・硬膜外麻酔あるいは腰椎穿刺等との併用により、穿刺部位に血腫が生じ、神経の圧迫による麻痺があらわれるおそれがある」

(共通文言:DOAC3剤・ヘパリン添付文書)

いずれも添付文書では、硬膜外麻酔中には投与は避けて欲しいような旨が書いてありますが、抜去後の再開時期はガイドラインと異なります。

① リクシアナ(エドキサバン)の「2時間 vs 6時間」問題

添付文書では「2時間以上」と記載されていますが、ガイドラインでは「6時間」が推奨されています。添付文書通りに2時間で再開してしまうのは、現場でも起こりやすい落とし穴の一つです。施設の方針にもよるかと思いますが、実臨床ではガイドラインに従い6時間を目安にするのが標準的です。

② プラザキサ(ダビガトラン)だけが「禁忌」の理由

他のDOACが「警告」の扱いであるのに対し、ダビガトランだけは添付文書の「禁忌」に記載されています。「硬膜外カテーテル留置中・抜去後1時間以内」が禁忌です。これは腎排泄率が約80%と高く、腎機能によって半減期が大きく延長するためです。腎機能が低下している患者では特に注意が必要です。

「抗血小板薬」の推奨再開時期

【結論】

抗血小板薬は、アスピリン以外は抜去後再開

アスピリンは術後早期に再開(カテーテル抜去タイミングによらず)

抗血小板薬の薬剤別の再開の目安は、以下のとおりです。

商品名一般名カテーテル抜去後の再開目安
バイアスピリンアスピリン術後早期に再開(抜去タイミングによらず)。継続のまま手術を迎えることも
プラビックスクロピドグレルカテーテル抜去後に再開可能
エフィエントプラスグレルカテーテル抜去後に再開可能
パナルジンチクロピジンカテーテル抜去後に再開可能
プレタールシロスタゾールカテーテル抜去後に再開可能(半減期が短く可逆的)

なお、ガイドラインは抗血小板薬の再開時間を薬剤別には定めておらず、アスピリンは早期再開(継続も可)、それ以外は抜去後に再開可能、という整理になっています。

(参考:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン(第3版))

ただし、その理由を理解した上で使うことが大切です。
なぜ抗凝固薬より扱いが緩いのでしょうか。

アスピリンについては

「アスピリン自体の抗血小板作用は弱く、脊髄幹麻酔(neuraxial block)に伴う硬膜外血腫のリスクを増加させないと考えられているが,他の抗血小板薬,抗凝固薬と併用されている場合は作用が増強する可能性がある

(引用:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン(第3版))

このような理由から、カテーテル抜去タイミングによらず術後の早期再開が可能と言われています。手術侵襲度にはよりますが、近年ではアスピリンは継続のまま手術を迎えるケースもあります。

クロピドグレル・プラスグレルなどのチエノピリジン系薬剤については

クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系薬剤については、ガイドラインでは抜去後再開可能とされています。

その理由について明確な記載は見当たりませんでしたが、これらの薬剤は通常量では抗血小板作用の発現に時間を要することも関係しているのかもしれません。

アスピリン、チエノピリジン系薬剤のいずれも添付文書に硬膜外麻酔・脊椎麻酔との関連記載はありません。

まとめ

硬膜外カテーテル留置中は、出血による硬膜外血腫のリスクがあるため、抗血栓薬の管理に注意が必要です。

今回のポイントをまとめると、

  • 硬膜外カテーテル留置中は、原則として抗凝固薬を投与しない
  • DOACの再開は、ガイドラインでは「カテーテル抜去後6時間以降」が目安
  • リクシアナ(エドキサバン)は添付文書では「2時間以上」と記載されているが、ガイドラインでは「6時間」とされている
  • アスピリンは硬膜外血腫リスクを有意に増加させないとされているが、他の抗血栓薬との併用には注意が必要

病棟では、「エピを抜いたけど、抗血栓薬はいつから再開していい?」と聞かれる場面が意外とあります。

その際は添付文書だけでなく、ガイドラインや施設ルールも確認しながら判断できると安心です。

この記事を書いた薬剤師のおすすめ本はこちら

おすすめ勉強本を見る
ABOUT ME
記事URLをコピーしました