【新人薬剤師レベル上げ3】粉砕・一包化・簡易懸濁の目的、必要な知識と調べ方

私は病院薬剤師7年目のkeikoです。新人教育も経験してきた中堅薬剤師。
新人から質問されてきたこと、1年目のときに知っておきたかったことを伝授します。
この疑問にお答えするために、「新人薬剤師のレベル上げをしよう」をテーマにしたシリーズの記事を書いています。大学で学んできたことを実務に落とし込めるような内容にしています。
前回の薬剤師レベル2では病院の処方箋の特徴と、薬以外の項目で調剤で見るべきポイントをまとめました。良かったら見てください。

今回は薬剤師レベル3、内服調剤についてです。
ただの調剤マシーンと化していませんか?
新人薬剤師の主な仕事は調剤。実は調剤だけでも学ぶことってたくさんあり、そもそも調剤には薬の基本的な知識が必要です。薬を集めるだけでは損!調剤しながら勉強しましょう。
内服には錠剤、散薬、水薬があります。錠剤の調剤は計数調剤が多く一見簡単ですが、粉砕、一包化、簡易懸濁の指示があることがあります。
これらの指示があるときにおさえるべきポイントついてお伝えします。
調剤ではもちろん、今後、服薬指導や病棟業務をしていくときに必要な知識です。ぜひ最後まで見て、実践してみてください。
粉砕
なぜ粉砕する必要があるのか
前提として、粉砕する理由は覚えておく必要があります。
主な理由
①嚥下力が低下して錠剤を飲み込むことができない
②胃瘻や腸瘻などチューブ(管)から薬を投与する必要がある
③極少量の投与量のため既製品では対応できない(小児用量にする目的が多い)
小児科領域に強い病院でなければ、主に高齢者で処方が出ることが多いです。認知症やパーキンソン病など嚥下機能が低下しやすい患者に処方されます。
徐放性製剤、腸溶性製剤といった特殊な製剤ではないか
徐放性製剤とは、成分がゆっくり放出され長く効く薬です。1日1~2回のように内服回数が少なくてすみます。粉砕すると成分が一気に放出され、体内に吸収され過剰投与になります。
腸溶性製剤とは、腸で薬が溶けて成分が放出されるようにつくられた薬です。粉砕すると放出されるべき場所で放出されないため、本来の力を発揮できなかったり、副作用が出現したりします。
例:ニフェジピン“CR”錠
テオフィリン“徐放”錠
分かりやすい薬だと名前に略語が書いてあります。統一はされておらず、バリエーション豊かです。
薬剤名に含まれている徐放性を意味する略語
・L(long)
・LA(long acting)
・R(retard)
・SR(sustained release)
・CR(controlled release)
・TR(time release) 等
このような略語がついているのであれば、見逃すわけがないよ~
そう思いますよね?そんな優しくないんです・・・。
この薬は知っていますか?
例:ワントラム、ツートラム
ベタニス
ワントラムやツートラムは他のトラマドール製剤を知っていれば、製剤特性を理解できます。通常のトラマドールは1日4回の薬ですが、少ない回数で内服できるよう設計された薬がワントラムやツートラムです。
これも一種分かりやすいワードが入っています。
“ワン”トラム ➡1日1回の「1(ワン)」
“ツー”トラム ➡1日2回の「2(ツー)」
同じ成分で、複数の規格がある薬は徐放性など製剤工夫されいている薬の可能性があるので注意するポイントですね。名前からも予測できる薬があるので、インタビューフォームの「名称の由来」を見ると面白いです。
次のベタニスが徐放製剤っていうのはちょっと意外だと思いませんか?
添付文書の「適用上の注意」にさらっと、“徐放性製剤であるため”と書いてあります。
(私は正直、2~3年目くらいまで知りませんでした・・・)
まずは略語から注意して、略語がなくても粉砕する前に必ず確認しましょう。調べ方は後述の「調べ方」を見てください。
これら徐放性製剤の粉砕については、度々PMDAで医療安全情報として報告されています。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.pmda.go.jp/files/000251752.pdf
薬剤師にとっては当たり前でも、病棟で看護師さんが知らずに粉砕している場合もあります。正しく情報提供していきたいですね。
OD錠、速崩錠ではないか
水にすぐに溶ける薬をあえて粉砕する必要は基本的にありません。粉砕理由③の極少量の投与量を調剤する必要がある場合以外は、PTPシートのまま調剤で良いはずです。
例:アミオダロン塩酸塩速崩錠
クレメジン速報錠
アムロジピンOD錠
マグミット(口中で速やかに崩壊するように製剤設計されたもの)
※インタビューフォームに書いてあります
それでも粉砕してほしい!と指示が合った場合、OD錠であれば問答無用で粉砕しても良いと思いますか?
実はそれも間違い!意外とOD錠でも徐放性、腸溶性製剤があります。
徐放性製剤の例
・アンブロキソールOD錠45mg
・タムスロシンOD錠
腸溶性製剤の例
・ランソプラゾールOD錠
粉砕後の安定性は
粉砕によって、安定性が保たれない薬があります。吸湿や光分解しないように、錠剤がコーティングされていることがあるからです。
すぐに分解されてしまう薬もありますが、一方で1週間、1ヶ月ならOKという薬もあります。安定性のデータから、どれくらいの期間なら粉砕できるか判断します。
光分解される薬は、管理状況によって許容できるケースが多々あります。
病院で薬を遮光して管理しているのであれば入院中は許容としたり、退院後も患者さんに薬袋など遮光管理をして、内服する直前に取り出すよう指導すれば許容とすることがあります。
職場によって対応は異なるので、確認しましょう。
味
粉砕理由②の経管投与時は考えなくて良いです。
①嚥下力低下、③極少量の投与のために粉砕しているのであれば、口から投与するので味はとても大事です。自分でもまずい薬を内服したくないですよね?コンプライアンスが低下する原因にもなります。
例:レバミピド(超苦い)
クロピドグレル(刺激が強い)
クロピドグレルは錠剤を粉砕している時にピリピリと刺激を感じるほどです。
調べ方
これらのデータから粉砕できるか判断しましょう。
一包化
なぜ一包化する必要があるのか
目的はコンプライアンス向上です。
なぜ一包化をするとコンプライアンスが向上するのか、その背景にはいくつかあります。
主な背景
①薬の種類が多い
②薬の見分けがつかない、PTPシートの文字が見えない
③PTPシートが開封できない
④家族や施設の人が管理
①②薬の数が増えると混乱して間違えたり、面倒で飲むのを中断してしまう方がいます。高齢で目が見えにくくなるとPTPシートの見分けがつかず、過剰、過少内服してしまうこともあります。一包化して「朝はこの袋1つだけ飲んでね」だったらできる方も多いです。
③関節リウマチやパーキンソン病、麻痺などで手先の細かい作業が難しい患者さんがいます。PTPシートは固いもの、取り出しやすいもの、大きさは大小様々です。お子様が誤って出して飲んでしまわないように、あえて固いPTPシートの薬もあります。
一般成人の私が一包化するときにも手が痛いな、と思うほどのものもあります。一包化の袋から取り出すのはできる、という方も多いのでそういう方には一包化で対応すると喜ばれます。
④認知機能低下し、ご家族が管理したり入所している施設のスタッフが管理することもあります。その人達は薬だけを管理しているわけではなく、自分の生活や仕事もあります。介護負担を減らす目的で一包化で対応することは多いです。
デメリット
本来、薬はそのままPTPシートで管理してもらえるのがベストです。
理由は一包化のデメリットにあります。
一包化のデメリット
・調剤に時間がかかる(待ち時間が増える)、お金がかかる
・薬の見分けがつきにくい、何の薬を飲んでいるのか分からなくなる
・中止や減薬が難しい
・安定性が悪い
・多数病院で薬をもらっていると、薬が一つにまとめられない
錠剤にはだいたい刻印があり、薬剤師が見ればこの薬が何の薬か分かります。分からなくても調べるツールを知っています。しかし、患者さんはもちろん、看護師さんもすぐにこの薬が○○だ、ということを判断することは難しいです。
一包化後の安定性は
基本的に、粉砕できれば一包化OKです。
粉砕後の安定性と同じように、吸湿性、光分解性が高いと一包化には向きません。
粉砕と違ってコーティングまで崩さないので、粉砕よりハードルは低いです。
錠剤の包装をみて、予想できる薬もあります。
SP包装

このようにSP(strip package)包装や明らかにゴツい包装など、薬の安定性を保つために特徴的な包装なことが多いです。
理由
・見た目吸湿性に弱そうでも、一包化できる薬がある(例:リボトリール®)
・見た目普通のPTPシートでも、吸湿性が高い薬がある(例:アスパラカリウム®錠、デパケン®錠)→触るとわかりますが、固めのPTP包装になっている
一緒に分包してはいけない薬がある?
吸湿性に関係なく、ある薬同士で一包化してはいけない薬があるんです。
オルメサルタンと一包化してはいけない薬
・メトホルミン
・カモスタット
・ブホルミン
添付文書の「適用上の注意」にしっかり書いてあります。(ブホルミンだけはオルメサルタンの添付文書には載っていなく、ブホルミンの添付文書に書いてあります)
調べ方
これらの情報から一包化できるか判断しましょう。
簡易懸濁法
そもそも簡易懸濁法とは
錠剤やカプセル剤を粉砕せずに、温湯(55~60℃程度)に入れて崩壊させてから投与する方法です。
なぜ簡易懸濁するのか
粉砕とは違って、こんなメリットがあるからです。
簡易懸濁法のメリット
①安定性が保たれる
②薬の量が減らない
③投与ぎりぎりまで薬の確認ができる、薬の変更や中止が容易
④薬代が安い
⑤チューブ閉塞リスク低減
①販売形態のまま管理できるので、安定性が担保されています。
②錠剤を粉砕すると、調剤するときに分包機や乳鉢に残ります。内服するときにも分包紙に残ってしまいます。本来投与するべき量から少なくなります。
③粉だと全て一緒に見えますが、錠剤のままであれば投与直前に薬を確認できます。中止や減薬にも対応できます。粉で混合していたら回収は不可能です。経済的にも◎です。
④薬価の例:
フロセミド10mg(2025年4月時点)
10mg錠「6.30/錠」
細粒4% 「27.4/g」
→10mgで「6.85」
錠剤<細粒になります
⑤粉が全てチューブに通ると思ったら大間違いです。例えば、酸化マグネシウム原末は水に溶けにくくチューブを閉塞してしまいます。マグミット®は水に溶解できるのでチューブを閉塞しなくてすみます。
55℃で10分?
処方箋にこのようなコメントが入っていたら、簡易懸濁の指示だと思ってください。
なぜこんなに中途半端な温度なのか?
日本薬局方の中に錠剤、カプセル剤等が37℃±2℃に保ち崩壊するかを確認する崩壊試験法があります。この条件でクリアしている薬が販売されているため、この温度設定が基準になっています。
55℃の温湯の作り方
前述したように、10分放置して37℃以下にならない温度設定なので、だいたい55℃であればOKです。
例:ランソプラゾールOD錠
添加物に凝固点は56~61℃のマクロゴール6000が入っているから。溶解時の温度が高いと再凝固します。
本当に簡易懸濁できるかな?と調べてみることが大切です。
調べ方
さいごに
錠剤を粉砕、一包化、簡易懸濁の指示があるときに確認するべきポイントは抑えられましたか?意外と知らなかった!なんてことも多かったのではないでしょうか。
調剤しながら、これらの知識を少しずつ身につけていきましょう。間違えなく、今後の薬剤師人生の役に立ちます。
知ってたよ!当たり前だった!という方は素晴らしい★薬は次々出てくるので適宜調べて、知識を増やしていきましょう!
これで薬剤師レベル②はCLEARです★
次の段階へステップアップしていきましょう!