【NST薬剤師解説】末梢静脈栄養の製剤比較|維持液・ビーフリード・エネフリードの栄養量を解説
——実は思っていたよりも投与カロリーが少ないことも!
高齢男性1日必要なエネルギー量約1,600kcalを基準とすると、
- ソルデム3A(500mL)×3本=258kcal →16%
- ビーフリード(500mL)×2本=420kcal →26%
このようにいざ計算してみると、こんなに少ないことがわかります。
末梢静脈栄養は構造的にエネルギーが不足しやすく、製剤の選び方ひとつで届く栄養量が大きく変わります。
この記事では、維持液・ビーフリード・エネフリードの成分とカロリーを比較しながら、末梢から効率よく栄養を投与するための考え方をNST薬剤師が解説します。
静脈栄養が選ばれる場面
(経口摂取・経管栄養)
末梢静脈栄養
(PPN)
中心静脈栄養
(TPN)
栄養投与のルートを選択する際、まず「消化管が安全に使えるか」が基準になります。
- 消化管が使える場合 → 経腸栄養(経口摂取・経管栄養)
- 消化管が使えない場合 → 静脈栄養
静脈栄養の中でも、投与期間によって選択が変わります。
- 2週間未満(短期):末梢静脈栄養(PPN)
- 2週間以上(長期):中心静脈栄養(TPN)
また、経口摂取や経腸栄養だけでは必要量に届かない場合に、補助的に静脈栄養を併用することもあります。
補液の目的は2種類ある
点滴(補液)には大きく分けて2つの目的があります。
- 水分・電解質補給
- 栄養補給
水分・電解質補給を目的とするものの例
- 細胞外液補充液・・・生理食塩液、リンゲル液、乳酸リンゲル液(ラクテックなど)、酢酸リンゲル液(ソリューゲンF、ヴィーンなど)、重炭酸リンゲル液(ビカネイトなど)
- 低張電解質輸液・・・ソルデム、ソリタ、KNなど
栄養補給を目的とするものの例
- 高濃度糖質輸液・・・ソルデム3AG、フィジオ35、ソリタT3号G液、10%以上の糖液など
- アミノ酸製剤・・・アミパレン、ネオアミユー、キドミンなど
- 脂肪製剤・・・イントラリポス
- 末梢静脈用栄養剤・・・ビーフリード、パレセーフなど
- 中心静脈用栄養剤・・・エルネオパ、ネオパレン、ピーエヌツイン、ハイカリックなど
重要なのは、ソルデム3Aをはじめとする低張電解質輸液は、水・電解質を補給するための製剤であり、カロリーはごくわずかだという点です。
低張電解質輸液の種類
ソルデムに代表される低張電解質輸液には1号液・2号液・3号液・4号液があります。
それぞれ、生食と5%ブドウ糖液の配合割合が異なるものです。
- 1号液(開始液):輸液開始時に使用
- 2号液(脱水補給液)
- 3号液(維持液)
- 4号液(術後回復液):術後の回復期に使用
ソルデム3Aなど維持液は、500mL製剤を3〜4本で1日分の水・電解質維持が可能とされています。
そのため、最もよく使われている輸液の一つといえます。
処方例でみる実際の栄養量
よくある処方例で実際の栄養量を確認してみましょう。
高齢男性(常食の目安:約1600kcal)への投与、製剤は1本500mLとします。
| 製剤名 | 主な成分 | カロリー |
|---|---|---|
| ソルデム3A ×3本 | 約258kcal | 常食(1,600kcal)の約2割 |
| ソルデム3AG ×3本 | 約450kcal | 常食(1,600kcal)の約3割 |
| ビーフリード ×2本 | 約420kcal | 常食の約3割 |
| エネフリード ×2本 | 約620kcal | 常食の約4割 |
ソルデム3A×3本はそもそも栄養補給を目的とした輸液ではなく、カロリーとしても常食の約2割に過ぎません。タンパク質も脂質も含まれず、わずかな糖質だけです。
カロリーは1本あたり86kcalのみです。どこかの先生は「ハム(86kcal)」と覚えていました。
ビーフリード×2本でも常食の約3割(420kcal)。アミノ酸は含まれますが、全体として不十分な栄養量です。
エネフリード×2本でようやく常食の約4割(620kcal)です。
維持液、ビーフリード、エネフリードの違い・考え方
製剤の違いを段階的に整理すると、次のように関連づけられます。
- ソルデム3AG = ソルデム3Aに「糖質だけ」をプラス
- ビーフリード = ソルデム3AGに「アミノ酸15g」をプラス
- エネフリード = ビーフリードに「脂質10g」と「水溶性ビタミン」をプラス
ソルデム3AGは1本150kcalと、維持液より糖を加えた分カロリーが入っていますが、タンパク質・脂質は含まれず「糖質だけ」です。
ビーフリードにはアミノ酸が含まれており、栄養価が上がります。
ただし浸透圧比が高くなるため、血管への負担も増します。
エネフリードはビーフリードに脂質とビタミンが追加になった製剤で、3大栄養素は全て入っています。
この関係を覚えておくと、それぞれの製剤を選ぶ意味がわかりやすくなります。
末梢静脈栄養の限界
「できるだけ末梢から多く栄養を入れたい」と思って最大量を投与した場合、どのくらいのカロリーになるでしょうか。
| 処方パターン | 総カロリー | 常食換算 |
|---|---|---|
| ビーフリード ×3本 + ソルデム3AG ×1本 + イントラリポス ×1本 | 約980kcal | 常食の約6割 |
| エネフリード ×4本 | 約1,240kcal | 常食の約7〜8割 |
これだけの本数を投与すると水分量が2,000mL以上になります。
浮腫や心不全がある患者さんには水分負荷が大きすぎて投与が難しくなります。
これが、末梢静脈栄養が「短期間(2週間未満)の使用を推奨」されている理由です。
長期化する場合は中心静脈栄養(TPN)へ切り替えすることの検討が必要です。
末梢静脈栄養の2つのデメリットと対策
末梢静脈栄養には、構造的なジレンマがあります。
デメリット①:浸透圧比が高いと血管痛・静脈炎を起こしやすい
ビーフリードやエネフリードは浸透圧比が約3です。
浸透圧比が高い製剤を投与すると血管への刺激が強くなり、血管痛や静脈炎のリスクが上がります。そのため、これ以上に濃い製剤を末梢から投与することは難しいのです。
デメリット②:薄い製剤を沢山入れると水分過多になる
血管への負担を避けようとして低浸透圧製剤を多量に投与すると、今度は水分量が増えすぎてしまいます。心不全や浮腫のある患者さんでは特に問題になります。
対策:脂肪乳剤(イントラリポス)の側管投与
脂肪乳剤(イントラリポス)の浸透圧比は約1と低く、血管への刺激が少ない製剤です。100mLで約200kcalと高カロリー(=エネルギー効率が良いと言います)なため、ソルデム3AGやビーフリードの側管からイントラリポスを併用することで、水分量を少なくカロリーを上乗せできます。
脂質をあらかじめ含むエネフリードは、こうした対策を製剤単体で実現しています。
エネフリードを積極的に選ぶ理由
ビーフリードとエネフリードは似た製剤ですが、NST薬剤師としてエネフリードをより積極的に勧める理由が3つあります。
① ビタミンB1含有量がビーフリードの2倍
静脈栄養中はビタミンB1が消耗しやすく、不足するとウェルニッケ脳症のリスクがあります。エネフリードにはビタミンB1が3.82mg含まれており、ビーフリードの2倍量です。
静脈栄養ガイドラインにおいて、
「静脈栄養時はビタミンB1の推奨投与量が6mg」とされています。
処方例:ビーフリード+ビタメジン
よくみる処方かと思いますが、ビーフリードにはビタミンが少ないので、理にかなっていますね。
② 水溶性ビタミン8種類をすべて含有
長期絶食・静脈栄養中はビタミン不足になりやすい状況です。
エネフリードは水溶性ビタミンをまとめて補給できる点で優れています。
ビーフリードにはビタミンB1しか入っていないが、
エネフリードには他の水溶性ビタミンも含まれています。
③ 脂質10gが含まれており効率よくカロリーアップできる
ビーフリードからエネフリードに切り替えるだけで、
「水分量はわずかな増加に抑えつつ、同じ本数でも1本あたり100kcalのカロリーアップ」になります。
浸透圧比はビーフリードと同じ約3のため、血管への負担は変わりません。
エネフリードの注意点
エネフリードの特徴を踏まえると以下の注意が必要です。
「水溶性ビタミン」含有のため
- 遮光保存が必要
「脂肪乳剤」含有のため
- 短時間での急速投与は禁忌
- 他薬との混注不可
- 投与前後に生食でフラッシュが必要
- 輸液ラインは24時間で交換
まとめ
- 維持液は水・電解質補給が目的であり、栄養補給の主体にはなれない
- ビーフリードはアミノ酸含有、エネフリードはさらに脂質を含み、末梢から投与できる最も栄養豊富な製剤
- どの製剤を使っても末梢静脈栄養だけでは1,000〜1,200kcal程度(常食の6〜8割)が上限。エネルギー過少投与を前提に計画する
- 血管痛・水分過多というジレンマへの対策として、脂肪乳剤(イントラリポス・エネフリード)の積極活用を検討する
- 消化管機能が回復したら早期に経腸栄養へ、長期化するなら中心静脈栄養への切り替えを検討する
